2016年2月14日日曜日

田舎に移住して農業でもして暮らすか、講座(その1)

こちらに移住してきてから5年目である。

農業を始め、農産加工にも取り組んでみて農業がどんなものなのかはわかってきた。その他、イベントを開催してみたり、地域の行事にもいろいろな面で携わらせてもらった。そういえばこちらにきてから下の娘も産まれてもう3歳である。

私みたいに、何をするかはっきりとは決めずに田舎に移住するという人も少ないとは思うが、余裕のない都会暮らしをしている人は、「いっそ田舎に移住して農業でもして暮らしたい」というような漠然とした移住願望を持っている人もいると思う。

そこで、「田舎に移住してこれをやるぞ!」というような強い意志があるわけではなく、なんとなく「農業でもするか」と考えている人に対して参考になるようなことをつれづれなるままに書いていくことにする。

(1)田舎に移住して農業で生活が成り立つのか

私の場合、青年就農給付金というのを貰いながら生活していて、これは農水省がくれる年間150万円の補助金である(金額は私の場合)。たぶんこれがなかったら生活できていなかったと思う(補助金は今年の夏で終わる)。でも逆に言うと、これのお陰で日銭を稼ぐ心配をせずにノンビリやっている面もあるので、なかったらなかったで必死で頑張ってなんとかなっているかもしれない。

とはいっても、農業というのは技術職であって、基本的には自分の技術をお金に換える手段である。だから農業を始めたばかりの人は、当然技術がないわけだから収入も低い。少なくとも3年くらいの間は勉強をメインにすべきであり、しばらくは貯金を取り崩すような生活をしなくてはならないと思う。(なお、ここでいう「勉強」とはもちろん座学のことではなく、収入を度外視してやる「仕事」のこと。)

よって、生活の固定費用をできるだけ下げることを考えなくてはならず、例えば住居費(家賃)であればどんなに高くても3万円以内にした方がいい。3万以下というと、都会の水準だとどんなウサギ小屋だと思うかもしれないが、田舎の市営住宅なんかだとそれくらいで割と普通の部屋に住める。

その上で、農業で生活が成り立つのかということだが、実は私もまだ生活が成り立っていない。でも4年目くらいから、「ああ、これくらいのことをすれば農業で身が立てられるはずだ」という相場観が分かってきた。現在定植している果樹が収穫できるようになれば多分暮らしていけると思う。農業でちゃんと収入を得るのは大変だが、少なくともそういう見通しが立てられるくらいの大変さである。

(2)移住先の決め方

最近、移住を勧めるのが田舎の自治体の流行りで、移住への支援制度が充実してきている。私が越してきた時の南さつま市にはなかったが、移住する時に一時金をくれるとか、リフォームの補助を出すとか、そういう支援サービスがこの3、4年で随分増えてきた。それで、田舎に移住したいなあという人はそういう支援サービスを自治体ごとに比べているかもしれない。

でも私の考えでは、そういうサービスがうまく使えるかどうかは役所の担当者次第だし、そういうことよりも、人の縁を大事にして移住先を決める方がよほどよいと思う。役所の支援プログラムなんかより、結局は「近くの他人」の方がずっと頼りになる。新規就農への支援も自治体ごとに様々で、一部には非常に支援が手厚い自治体もあるが、自治体のやることであるから大体はドングリの背比べである。しかし人と人との繋がりはそういうわけにいかない。縁があるか、ないかは人生を左右する。

農業するのに有利な土地、厳しい土地というのも確かにある。山奥の、あまりにアクセスの悪いところ、狭小な畑のところは農業するには辛いところである。でもそれでも、そこに頼れる人がいるなら住めば都になるだろう。それどころかそういうところだからこそ面白いことができるかもしれない。人の縁を信じて移住するのがよいと思う。

ところで、どうせ田舎に移住するなら味のある古民家に住みたい、という人も多い。そういう場合、自治体にこだわらずまず入居可能な古民家を探して、そこを移住先に決めたい、という人もいるかもしれないが、それは現実的にはかなり難しい。古民家というのは住宅市場にほとんど出てこないからだ。インターネットに載っているような物件から探すということだと、氷山の一角のさらにひとかけらである。

ではどうすべきかというと、古民家の残っていそうな田舎だったらどこでもいいので、やはり人の縁を頼ってまず移住してしまうのがいいと思う。そして月並みな物件に入って1年くらい暮らしてみる。人間関係が普通に築けていけば、古民家を探していると言いふらしておけば1年もすると「あそこにいい家が残っているよ」という話がポツポツと出始めるだろう。ちゃんとした人だということが知られているなら、家賃なんかはほとんどタダみたいなもので貸してくれる可能性もある。

そんな悠長な引っ越しできるかいな! と思うのであれば、それはセコセコしすぎである。田舎では万事焦ってはだめだと思う。というより、セコセコしたいなら都会で暮らす方がよい。家を探すのでも、インターネットや不動産屋を使って積極的に探すというよりも、むしろ向こうから話がやってくるのを待つくらいの余裕がないといけない。

かといって、田舎で農業をしながら暮らすということが、都会の人が考えるようなのんびりとしたものかというとそうでもない。もちろん、残業といってもタカが知れているし(暗くなったら外作業はできない)、分刻みのスケジュールのようなものはない。残業続きで休みがないような職場に比べれば、ゆとりがあるのは確実である。

しかし農業はそれほど暇ではない。どうしてかというと「貧乏暇無し」という言葉があるように、いつもあれやこれやに追われながら様々な仕事をこなす必要があるからで、特に就農したての頃は休みらしい休みもなく働くことになる。ただ、独立就農の場合はそこに上司も部下もいないので、忙しいといっても都会の仕事でいう忙しさとは随分性質の違う忙しさで、休日を心待ちにするような忙しさではないと思う。

(3) 当面の資金はどれくらい必要か

先述のように、家にかかる費用は極力抑えるべきということで、引っ越しや転居の初期費用(ちょっとしたリフォームとか)は除いても、最低限の農業経営を開始するということを考えたら500万円くらいの元手がいるというのが私の考えである。内訳として、当面(2年くらい)の生活費として200万円、農業にかかる施設設備の準備や機械の購入に充てるお金として300万円くらいである。この500万円が、普通の会社でいうところの資本金のようなものだと思ったらよい。

私の場合、これよりもうちょっと多いくらいのお金を農業経営を立ち上げるために使った(もちろん生活費も含めて。ただし農産加工にかかったお金は除く)。どんな農業をするかによってこの金額は様々だが、軽トラックや倉庫といったものはどうしても必要なので、資本金が少なすぎるとそれだけで非常に苦労する。それに、農業法人などに就職するのでなければ、農業といっても独立自営業である。自営業を打ち立てるというのに、資本金もほとんどないというのでは就農そのものがホンキにされない可能性がある。

しかしそういう商売の面を除けば、田舎の生活というのは、都会の人が思っている以上にお金はいらないものである。野菜がタダでもらえるとか、そういうことではない。私の住んでいるような相当な僻地だと、お店そのものがないからお金を使う機会がない。これが一番大きい。少し都会に出るとあれやこれやですぐにお金が飛んでいくし、実際お金を使わないと生活の質がガタ落ちする。でも田舎では、お金を使うところも少ないし、お金を使わなくてもそれなりに楽しい生活ができる。

一方、全くのゼロから農業を始めて、どれくらいの所得が見込めるのかというと、だいたい1年目20万円、2年目50万円、3年目100万円というくらいの感覚で考えたらいいと思う。もっと早く一人前になるような農業のやり方もあると思うが、割とゆっくり成長していくことを考える方が失敗のリスクが少なく、これくらいと思っていた方がよい。そしてとりあえずの所得目標は250万円くらいではないだろうか。日本の平均年収から考えると随分低い目標だが、田舎でこれくらいの所得があれば夫婦と小さい子どもならとりあえずやっていける。

農業というのは、少額を稼ぐだけならさほど難しくはない。野菜を作って物産館に持っていくだけで、月に1・2万円だったらすぐに稼げる。だが、それを10万円・20万円にしていくのが難しい。 作業量を10倍にすればよいという問題ではなく、少額を稼ぐ農業とまとまったお金を稼ぐ農業は別のものだと思った方がよい。農業の経営を行うということは、結局はこの「まとまったお金を稼ぐ農業」の体系をどう作っていくかだと思う。

(つづく)

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