2015年8月18日火曜日

決められた「お米の食品表示のラベル」

今年から「南薩の田舎暮らし」ではお米を販売した。それで、初めてお米の食品表示のラベルを作ったわけである。

このラベル、小売りされているお米のパッケージには必ず付いている。実はかなり細かいところまで書くことが決められていて、その大きさまで(文字の大きさまで!)含めてどこもほとんど同じである。

実は、「決められている」といっても農水省の告示「玄米及び精米品質表示基準」というやつに書いてあるだけなので、(虚偽を書いてはいけないが)これに違反しても特に罰則があるわけでもない(行政指導を受けるくらいだと思う※)。

こういう、法的拘束力がほとんどない「告示」にほとんどの業者が従っているというのは良くも悪くもすごいことだ。「告示」のように、行政的には軽微な、つまり役人のさじ加減次第でどうにでもなるような規則が社会の様々な面で大きな影響力を持っているのはあまりよいことではないが、そう思っている私自身もこれに従っているのだから人を笑えない。

このラベルにはもう一つ笑えないことがある。それは「原料玄米」の項目が「未検査米」となっていることだ。普通の人は、これではなんのことか分からない。

「玄米及び精米品質表示基準」では、この「原料玄米」の項目は「登録検査機関」による証明事項を記載することになっており、その検査を受けていない場合は「未検査米」として表示しなければならない。つまり、品種どころか産年(2015年産とか)すら表示できないのである。

ちなみに、このラベルには(告示に従って!)記載していないが、このお米は当然2015年産の新米であり、品種はコシヒカリである。「登録検査機関」に検査してもらわないとそれは書けないのである。

では「登録検査機関」とは何かというと、農産物検査法に規定するもので、農水省の指定を受けた機関である。具体的にはJAとか小売業者とかが指定を受けているが、うちの地域の近場でいうとJAがそれにあたる。だから収穫したお米をJAに持っていき、検査を受ければ「2015年産のコシヒカリ」という表示をすることができる。でも僅かとは言え検査料も取られるし、何より(こういう言い方をすると傲慢だが)私よりJAを信じる、という人が私のお客さんにはいないと思うので検査はしなかった。新米だと私が言ってるんだから信じて欲しい。

それにしても、どうしてこう穀物類は規制と管理ばかりなのか。上記の基準の他に「米トレーサビリティ法」というのもあって、取引の際に産地や品種などの情報を引き継いで行かなくてはならないとか、いろいろある。補助金との関係があるにしても過剰な管理がなされているように感じる。

ちなみに「米トレーサビリティ法」は、数年前に食用でない米を食用に転用していた悪い業者がいて、そのせいで出来た法律だが、そもそも規制と管理は多いのに、人々の善意に頼るばかりで実質的な拘束力を持たないことが事件の背景にあったと思う。

農業関係ばかりでなく、こういうことが日本の規則体系には多い。事細かにいろいろ決められている割には、それを破るのは簡単である。つまり、善意の人はちゃんとその煩瑣な規則に従うが、悪意ある人にはそれをやすやすと無視しうる。それで、正直者は馬鹿を見る、みたいな規則がたくさんある。米の食品表示にしても、安い米を仕入れてきて「魚沼産コシヒカリ」と詐称して売るのは簡単であって、登録検査機関による証明とか、そういうことは生産者や業者の善意に任されているのだ。

一方で、物事は善意に任すべきだ、というのが私の考えである。性悪説に立った規制でがんじがらめになるのはまっぴらゴメンである。でもどうせ善意に任すなら、最初から規制なんかない方がいい。悪意ある人を排除できないような規制なら、ある意味がない

結局、安い米を仕入れてきて「魚沼産コシヒカリ」として売る人を排除するのは規制の力でなくて消費者の選択であるべきだ。ウソで成り立たせる商売は、長期的にはペイしないと信じるしかない。「消費者に味などわからない、彼らは情報(ラベルや評判や格付け!)を消費しているんだ!」と訳知り顔に言う人もいるが、そんなことはないと思う。意外と消費者は騙せない。

だから、消費者が騙されないように煩瑣な規則を作るよりも消費者の力量を信じた方がよいと思うし、仮に消費者保護を厚くするにしても、善意の人に守ってもらうような規則ではなく、悪人を厳罰に処する規則にすべきだと思う。

※ ちなみに虚偽を書いたら1年以下の懲役又は100万円以下の罰金。

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