2012年3月14日水曜日

鹿児島県民こそ読むべき『ぼくの鹿児島案内。』

この本『BE A GOOD NEIGHBOR ぼくの鹿児島案内。』は、いわゆる観光案内ではない。編著者である岡本 仁氏が、鹿児島での仕事の合間に出会った素敵なモノについて紹介したエッセイである。

紹介されるものはどれも、観光名所や鹿児島県民イチオシのものではない。むしろ、地元の人達が見過ごしてきた、何気ないもの、どこにでもあるもの、ある意味では田舎くさいものである。

しかし、岡本氏の感性を通して見ると、それが大都会にはない、地に足を下ろした、本当に素敵なものだったことに気づかされる。この本には、私の知らなかった鹿児島を発見させてもらった

都会には、おしゃれな場所がたくさんある。お金を掛ければ、ある程度優れたデザインの、居心地のよい空間はすぐに造りあげることができるだろう。しかし、いろいろな偶然と人間の試行錯誤を経た、地元の歴史と文化に根ざしたものは、お金を掛けても作ることはできない。それは、地元に生きる人間の、人生の上に造りあげられたものだからだ。

そういう素晴らしいものは、鹿児島だけでなく、どんな田舎にも存在すると思う。私は、つまらない田舎なんてないと思っている。数千年前から、この列島のそこかしこに人間が棲みついてきたのであり、いろんな人生が日本中のあらゆるところで展開してきたのである。

だから、鹿児島が他の地域に比べて特に素晴らしい、ということは言えない。とはいえ、鹿児島は九州の中でも独特の気候風土を持ち、古代からの歴史と文物、中央からの地理的遠さなども相まって、外から見てみると、非常に興味深い地域であることは間違いない。鹿児島にすっかりハマってしまった岡本氏の出身が北海道であることは示唆的である。

しかし、その興味深さ、独特さ、素敵さを、しばしば地元の人間は気づかない。それが当たり前だと思い込んでしまう。だから、こうして外の人からその価値を指摘してもらうことは重要だ。この本は、鹿児島観光を考えている人にはあまり役に立たないかもしれない(紹介されている場所が、ちょっと観光の目的地にはならなそうなところが多い)が、むしろ鹿児島の地元の人間こそ読むべきである。

そうすればきっと、鹿児島にある素晴らしいものが再認識できると思う。もちろん、これは岡本氏が思った素晴らしさなので、その全てを読者が素晴らしいと思うかは別だ。岡本氏は、仕事柄かデザインや見た目の面白さに惹かれる部分が多いので、それだけが鹿児島の面白さじゃない、と思う人もいるだろう。でも、これは「ぼくの鹿児島案内」なのだ。十分に主観性が発揮されてよい。百人百様の「ぼくの鹿児島案内」が出来ると思うし、私自身、いずれ自分なりの鹿児島案内を作りたいと思う。

さて、2012年1月に、この続編『BE A GOOD NEIGHBOR 続・ぼくの鹿児島案内。』が発売された。それを、今日買ってきたのである。今度は、どんな発見があるだろうか。

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